全戸一括型のインターネットが遅い ──「無料」の正体と、住人にできること

「インターネット無料」が遅い まず建物を調べる

募集図面に「インターネット無料」と書いてあって、それも決め手のひとつで入居した。でも夜になると動画が止まる。

無料で使わせてもらっているのに文句を言うのも、と思って我慢している人がかなりいます。でも打てる手はありますし、そもそもそれは無料ではありません。

この形は全戸一括型と呼ばれます。建物の全戸分をまとめて契約してあるタイプで、遅くなる理由も、住人に打てる手も、自分で契約した光回線とは違います。

順番に見ていきます。

その「無料」の正体は全戸一括型 ── 誰かが払っています

マンションの「インターネット無料」は、多くが全戸一括型です。オーナーか管理組合が建物の全戸分をまとめて契約し、その費用を家賃や管理費に含める形。住人は申し込みをしなくても、入居した日から使えます。

NTT西日本の「全戸加入プラン」を例にすると、仕組みはこうなっています。

  • 対象は6戸以上の集合住宅
  • 居住の有無に関係なく、管理人室などを含めた物件の全戸数で契約する。月額利用料は契約戸数分
  • プロバイダー契約は2通り。オーナー・管理会社・管理組合が払う方式と、入居者が払う方式
  • 契約期間は10年更新と5年更新があり、途中解約には解約金が発生する場合がある

10年という数字を見てください。建物側はそう簡単に変えられない契約を結んでいます。これが後で効いてきます。

全戸一括型が遅くなる理由 ── 1本を分け合っている

一括型だからといって遅いわけではありません。中身が2通りあります。

建物内の方式配り方体感
ひかり配線方式(専有型)住戸ごとに1本ずつ光回線を引き込む速い。遅ければ原因は部屋の中
LAN方式・VDSL方式1本の光回線を全戸で共有する夜に落ちる

NTT西日本の説明でも、LAN方式とVDSL方式は「1本の光回線を全戸で共有する方式」として紹介されています。共有ということは、全戸が同時に使えば、その1本を割り算することになります。

平日の昼は快適なのに21時を過ぎると止まる、というのはこの形の典型です。部屋の問題ではなく、建物の設計の問題です。

補足

局から建物まで引かれてくる光ファイバーを複数の契約で分け合う仕組み自体は、全戸一括型かどうかに関係なく、光回線に共通する構造です。方式の違いで変わるのは、そこから先、建物の中でさらに何戸と分け合うかのほうです。全戸一括型が遅くなりやすいのは、その建物の中の分け合い方を住人側が選べず、設備の更新も自分の判断ではできないからです。

自分の建物がどちらかを調べる

部屋の機器と壁の差込口で見当がつきます。手順は光配線・VDSL・LAN配線 ── 自分の部屋がどれかを見分ける方法にまとめてあるので、そちらをどうぞ。

確実なのは管理会社に聞くことです。一括型の場合は、聞くことがひとつ増えます。

管理会社への聞き方

「建物のインターネットは全戸一括型でしょうか。各戸までの配線方式は、ひかり配線方式・VDSL方式・LAN配線方式のどれになりますか。また、個別に光回線を引くことは可能でしょうか。」

最後の一文を必ず入れてください。理由は次の節です。

全戸一括型の建物で、住人にできることとできないこと

効く順ではなく、手をつけやすい順に並べます。

1. まず部屋の中を疑う

共用回線の建物でも、ボトルネックが部屋の中にあることは珍しくありません。パソコンをLANケーブルで直接つないで測り、Wi-Fiで測った数字と比べてください。大きく差があるなら、原因は回線ではなくWi-Fiです。

この場合はルーターの買い替えや置き場所の調整で変わります。管理会社に相談する前に、ここを切り分けておくと話が早い。

2. 時間帯をずらす、有線にする

1本を分け合っているなら、使う人が少ない時間に寄せるのがそのまま効きます。大きなダウンロードや更新は深夜に回す。テレビやゲーム機は有線にして、Wi-Fiの取り合いを減らす。地味ですが、無料でできます。

3. 管理組合・オーナーに設備の更新を相談する

分譲なら管理組合の議題にできます。賃貸ならオーナー次第です。

いま相談するなら追い風があります。VDSL方式の集合装置は部材費の高騰で維持が難しくなってきていて、NTT自身が光配線方式への移行を進めています。この背景はVDSLだと分かった ── 100Mbpsの上限から抜ける3つの道の「道1」に書きました。NTT東日本エリアなら、居住者が直接要望を出せる窓口もあります。

ただし、建物側は10年や5年の契約を結んでいることがあります。更新のタイミングを聞いておくと、現実的な時期が見えます。

4. 自分で別の回線を引く ── 壁は高い

できる建物もありますが、条件が重なります。

  • 管理会社またはオーナーの許可が必要
  • 共用部の工事は他の住人に影響するため、手続きが複雑になることがある
  • 外壁への穴あけや配線が必要になることがあり、退去時に原状回復を求められることもある

見落とされがちな点

NTT西日本の全戸加入プランでは、契約後に新規で光コラボを申し込むことはできないと明記されています。すでに使っているコラボ光は継続できますが、入居後に新しく申し込む道は閉じている。

つまり建物によっては、許可の問題ですらなく、そもそも選択肢がないことがあります。だから先ほどの「個別に光回線を引けますか」が重要になります。

5. 建物の配線を使わない

ホームルーターです。携帯電話の電波を使うので、建物の共用設備を一切通りません。許可も工事もいらない、唯一の手です。

ただし速度は電波次第で、上りと応答速度は光回線に劣ります。向き不向きがはっきり分かれるので、ホームルーターは「無制限」ではない ── 契約前に見る5つのことを読んでから決めてください。

二重払いになることは、先に理解しておく

ここが判断の分かれ目です。

「無料」の分は家賃や管理費に含まれています。自分で別の回線を引いても、その分が引かれるわけではありません。上乗せになります。月5,000円前後が丸ごと増える前提で考えてください。

だから先に決めるのは「速くする方法」ではなく、「月いくら払ってでも速度が要るか」です。

  • 在宅勤務で会議が止まると仕事にならない、配信や大きいファイルのやり取りがある ── 払う価値があります
  • 一人暮らしで、動画とブラウジングが中心 ── ルーターの改善と時間帯の調整で足りることが多い

売る側にいる人間が言うのも妙な話ですが、ここで我慢したほうが得な人はかなりいます。

入居前なら、ここで決まる

一番効くのは契約前です。内見のときに3つ聞いてください。

聞くこと何が分かるか
インターネットは全戸一括型ですか個別に選べるかどうかの前提
各戸までの配線方式はどれですか速度の上限。1本を分け合う形かどうか
個別に光回線を引くことは可能ですか後から打てる手が残っているか

「インターネット無料」の4文字だけで判断すると、入居後に選択肢がないことに気づきます。入居してからでは変えられない情報です。

許可を取りにいく場合の進め方は賃貸で光回線を引きたい ── 許可はどこまで必要かにまとめました。

まとめ

  • 「無料」は無料ではなく、家賃や管理費に含まれている
  • 遅さの原因は、1本の光回線を全戸で分け合う方式かどうか
  • 建物側は5年・10年の契約を結んでいることがあり、すぐには変わらない
  • 全戸加入プランの建物では、個別に光コラボを新規申し込みできないことがある
  • 許可も工事もいらない唯一の手はホームルーター
  • 別の回線は上乗せになる。先に「払ってでも要るか」を決める

「無料だから我慢するしかない」は、半分は本当で、半分は違います。建物の形を知ってから我慢するかどうかを決める、という順番にしてください。

個別に引けると分かったときの事業者の比べ方はマンションタイプの光回線を比較する ── 料金表より先に決まっていることにまとめました。

参考にした公式情報

プランの内容や提供条件は変わります。契約前に必ず公式ページと管理会社で確認してください。

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