マンションに住んでいて、ネットが遅い。動画が止まる、会議の画面がカクつく。回線を乗り換えようかと比較サイトを開いた。
その前に、ひとつだけ確認しておいてほしいことがあります。
マンションでネットが遅いとき、原因が契約している回線ではなく、建物の中の配線にあることがあります。この場合、どの回線に乗り換えても速度はほとんど変わりません。
まず建物を調べる。回線を選ぶのは、そのあとです。
2回お金をかけて、2回とも外した人の話
以前、こういう相談を受けたことがあります。
ドコモ光からソフトバンク光に乗り換えたけれど、速度がまったく変わらない。次に疑ったのがルーターでした。レンタルしていたものを解約して、1万円ほどのルーターを自分で買って交換した。それでも、変わらなかった。
原因は、建物の中の配線でした。そのマンションはVDSL方式で、回線をどこに変えても、ルーターを何に変えても、上限は約100Mbpsのままだったのです。
ドコモ光にも、ソフトバンク光にも、買ったルーターにも、問題はありませんでした。誰も嘘をついていない。ただ、建物の話を最初に誰も説明していなかった。それだけのことで、お金と手間が二度かかりました。
この記事で説明するのは、なぜこういうことが起きるのかと、自分の部屋がどうなっているかを調べる方法です。
「1ギガの契約なのに100Mbpsしか出ない」が起きる理由
光回線は、電柱から建物の共用部まで光ファイバーで届きます。ここまではどのマンションでも同じです。
問題はその先、共用部から各部屋までをどうやって配るか。ここに3つの方式があって、どれが使われているかで速度の上限が決まります。
| 建物内の方式 | 部屋までの配線 | 速度の上限(目安) |
|---|---|---|
| 光配線方式 | 光ファイバー | 1Gbps〜 |
| VDSL方式 | 電話線 | 約100Mbps |
| LAN配線方式 | LANケーブル | 100Mbps〜1Gbps |
光配線方式 ── 各部屋まで光
共用部から各部屋まで、光ファイバーがそのまま引かれています。上限は1Gbps以上。この方式で遅いなら、原因は建物ではなく、ルーターや設定や電波のほうにあります。
VDSL方式 ── 部屋までは電話線
共用部までは光ですが、そこから各部屋へは既存の電話線を使います。上限は約100Mbps。1ギガのプランを契約していても、100Mbpsが天井です。
そして、築年数が経っているマンションではこの方式が少なくありません。「遅い」という相談の多くが、ここに行き着きます。
LAN配線方式 ── 部屋までLANケーブル
共用部から各部屋へLANケーブルで配線されています。上限はケーブルの規格次第で、100Mbpsのこともあれば1Gbps出ることもあります。
上の数字は方式ごとの一般的な目安です。実際の上限は建物の設備や契約内容によって異なります。自分の建物の状況は、必ず管理会社や回線事業者に確認してください。
乗り換えても変わらない、というのはこういうことです
VDSL方式の建物に住んでいる人が、A社からB社の1ギガプランに乗り換えたとします。
電柱から共用部までは、たしかに1ギガで届きます。でも共用部から部屋までは、乗り換える前とまったく同じ電話線を通ります。変わったのは契約先だけで、一番細いところは何も変わっていません。
水道にたとえると分かりやすいかもしれません。道路の下の本管を太くしても、家に引き込んでいる管が細いままなら、蛇口から出る量は変わらない。建物の中の配線は、その細い管にあたります。
比較サイトを読んで乗り換えたのに速くならなかった、という話の正体は、多くの場合これです。比較サイトが悪いわけではなくて、建物の話が最初から抜けているのです。
100Mbpsは、遅いのか
ここで一度立ち止まってほしいところがあります。「上限100Mbps」と聞くと絶望的に響きますが、用途によっては、それで足りていることがあります。
目安として、4K画質の動画配信で15〜25Mbps程度、ビデオ会議で数Mbps程度(いずれもサービスによって異なります)。一般的なWeb閲覧はもっと少なくて済みます。一人か二人で、動画とオンライン会議が中心の使い方なら、100Mbpsという上限そのものより、時間帯によって落ちるかどうかのほうが問題になります。
逆に、上限がはっきり効いてくるのはこういう場合です。
- 家族が同時に、それぞれ動画やゲームを使う
- 大きなファイルのやり取りが日常的にある(在宅勤務、写真や動画の仕事)
- オンラインゲームで遅延を嫌う
- クラウドへのバックアップなど、アップロードが多い
「上限が100Mbpsである」ことと、「実際に困っている」ことは別の話です。まず実測して、今どれくらい出ているのか、いつ落ちるのかを見てから判断してください。
売る側にいる人間が言うのも妙な話ですが、乗り換えなくていい人は、思っているよりかなりいます。
自分の部屋がどの方式かを調べる
ここでは要点だけ書きます。光配線・VDSL・LAN配線 ── 自分の部屋がどれかを見分ける方法に、部屋の機器の見方から管理会社への聞き方まで、手順をまとめてあります。
1. 壁の差込口を見る
部屋の壁にある差込口で、ある程度の見当がつきます。
- 光コンセント(「光」のマークや「SC」と書かれた差込口)があれば、光配線方式の可能性が高い
- 電話線の差込口だけ(四角いモジュラージャック)なら、VDSL方式の可能性
- LANポート(LANケーブルが挿さる差込口)があれば、LAN配線方式の可能性
ただし、これは見当をつけるための方法であって、これだけで確定はできません。使われていない古い差込口が残っていることもあります。
2. 管理会社か管理組合に聞く
いちばん確実です。「建物内のインターネットの配線方式を教えてください」と聞けば通じます。賃貸なら管理会社、分譲なら管理組合か管理会社が窓口です。
3. 回線事業者の提供エリア検索で建物名を入れる
建物名で検索すると、対応している方式まで表示されることがあります。ただし情報が古い場合もあるので、最終確認は管理会社へ。
配線方式は、住んでいる人には変えられません
ここが一番きついところです。
建物の中の配線は共用部の設備なので、一住民の判断では変えられません。変えるとなれば、管理組合の総会で決議して、費用を決めて、工事の日程を調整して、という話になります。年単位の話です。
だから「VDSLだから諦めるしかない」と書いてある記事もありますが、そこまで言い切る必要もありません。打てる手はいくつか残っています。
VDSLだった場合に、できること
順番があります。上から試してください。
- 契約を変えずにできることをやる。ルーターの買い替え、LANケーブルの規格、置き場所、つないでいる電波の種類。ここだけで従感が変わることは珍しくありません
- 個別に光回線を引けるか確認する。建物にマンションタイプが入っていても、条件次第で個別に引ける場合があります。管理組合や大家の許可が要ります
- 工事が難しいなら、工事のいらない選択肢を検討する。ホームルーターやモバイル回線。速度は環境次第ですが、VDSLより速いこともあります
「回線を乗り換える」は、この3つを試したあとの選択肢です。順番を逆にすると、お金と手間をかけて何も変わらない、ということが起きます。
速度が出ない原因は、配線だけではありません
念のため書いておくと、遅さの原因は配線方式だけではありません。症状で、ある程度の切り分けができます。
- 夜だけ遅い ── 建物内で帯域を分け合っているため、同時に使う世帯が増える時間帯に落ちます
- Wi-Fiだと遅いが、有線だと速い ── 原因は回線ではなく、ルーターか電波です
- 時間帯に関係なく、有線でも遅い ── 配線方式を疑う段階です
切り分けの第一歩は、パソコンをLANケーブルで直接つないで速度を測ることです。Wi-Fiで測った数字は、回線の速度ではありません。ここを混同したまま回線を乗り換えてしまう人が、かなりいます。
まとめ
- マンションの速度の上限は、契約している回線ではなく、建物の中の配線方式で決まることがある
- VDSL方式なら約100Mbpsが上限。1ギガを契約しても、乗り換えても、そこは変わらない
- まず自分の建物の方式を調べる。管理会社に聞くのが確実
- 方式が分かってから、初めて回線を比較する
遅さに困って比較サイトにたどり着いた人が、実は比較する前の段階でつまずいている。このサイトは、その手前を引き受けるために作りました。
調べた結果がVDSL方式だった人は、VDSLだと分かった ── 100Mbpsの上限から抜ける3つの道へ。上限そのものを動かす方法と、動かせないときにできることを書いています。
建物を調べて、自分で選べると分かったら、次は事業者選びです。比べ方はマンションタイプの光回線を比較する ── 料金表より先に決まっていることにまとめました。

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